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2015/07/01(水)
頭の中を、熱いベールが覆っていく。
そのうちアレが来そうな予感がある。
突然ぶわっと快感が大きくなって、イきたくて仕方なくなる感じ。
そうなったら自分では止められない。
指が勝手に動いて、すぐにイっちゃうだろう。
興奮はどんどん大きくなっている。
欲求も膨らんでいる。
でも、指、止めなきゃ。
ケンジは、そうしたから。
ああ、でも、すぐにまたちょっと動かしたんだっけ。
だから私も、少し動かす。
それだけで、鋭い快感が走る。
――ああ、ああっ。
私の指は気持ち良さと連動している。
自分の意思と無関係に止まったり動いたりはしない。
自分で止めようと思わない限り、動き続ける。
感じるポイントを外さずに快感を得ようとする。
わかりやすくて簡単だ。
でも、その簡単さが逆にもどかしかった。
凄く感じているのに、何かが違う。
ああっ。なんか、おかしい。
したいのに、したくない。
イきたいのに、イきたくない。
激しく興奮しているのに、何かノリが悪い。
たっぷり感じているにもかかわらず、違う快感を求めていた。
激しく興奮すればするほど、別の欲求が生まれる。
一人エッチじゃ物足りなかった。
自分のコントロールを超えた快感。一人ではできないやり方。
それが欲しい。
自分のペースじゃなくて、おかしくされたい。
それが私の望みだった。
欲情した身体は、快感を欲しがっている。
だけど今日はこれ以上せずに、このままエッチな気分でいよう。
それも凄くヤらしくて、ドキドキする。
胸の奧に熱がある。
ヤツは起きているだろうか?
そんなに時間はたってない。多分まだ起きてる筈だ。
上半身を起こして腕を伸ばし、携帯を掴んだ。
エッチな気分のまま、ヤツに電話する。
その考えに、熱い興奮が湧いてくる。
――だけど、何て言おう?
また今度エッチしたい、……とか?
そこまであからさまに言っていいんだろうか?
ストレートすぎないだろうか? 引かれたりしないだろうか?
脳内シミュレーションはいつだって上手くいかない。
――出たトコ勝負だ。
携帯の発信ボタンを押した。
ちょっと勇気はいったけど、バンジージャンプに比べたらどうってことない。
……バンジーなんてしたことないけれども。
コール3回で出なかったら切るつもりだった。
呼び出し音を聴いた途端、メールにしとけばよかったと後悔した。
だけど、3回目のコールが鳴り終わる直前、ヤツが電話に出た。
「ああ、マリ。……起きてた?」
「あ、うん。お風呂上がって髪乾かして、ベッド入ったとこ」
まあ、嘘ではないけど。
でも、何をどう話せばいい?
頭の中が熱い。
――あー、やだ。焦るし。
「悪ぃ。別に明日でもよかったんだけどさ」
「こっちもまだ寝てなかったし」
「今度の土曜オマエと会うつもりだったんだけど、坂井なんかと出かけることになっちまって」
「あ、そうなんだ……」
こちらの逡巡をよそに、ヤツはいたって平静な声だった。
って、電話しろっていったの、そういう理由?
――何かムカつく。
土曜に私と会うつもりだったぁ? そんな話聞いてないぞ? 約束した覚えもないし。
ヤツが勝手にそう決めてて、勝手に変更したってこと? だったら、そんなこといわなきゃいいのに。
――さっきまでのエッチな気分、どうしてくれんのさ?
ちなみに坂井というのはケンジの友だちだ。名前は聞いているけど、私は会ったことがない。
「でさ、オマエも来る?」
「え?」
「だから、スケート。嫌じゃなければ」
「え、あ、別に嫌じゃないけど」
結局その後、私もスケートに行くことになった。
っていうか、電話かける前とのギャップに、気分がついていけないっすよ。
こちらの事情などおかまいなしに、会話は普通に続いた。
ケンジはいつも通りで、私も表面上はそんな感じだった。
なんていうか、セクシャルでもスイートでもない会話?
私から「エッチしたい」なんていったら、一気に100メートルは引かれそうな空気だ。
っていうか、そんなことを告げる1ミリの隙間も、0.1秒のタイミングもなかった。
やっぱ脳内シミュは意味がない。
――無駄に会話の計画立てなくてよかったよ。
自分自身のいきあたりばったりに微かな満足を感じた時、ケンジがぼそっと言った。
「ところで、マリクリはどうしてる?」
やっぱコイツは、世界を破滅に導くKYの大王だ。
隙間もタイミングも一切関係ない。ヘンタイ性欲魔神、いきなりの降臨だった。