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2015/07/01(水)
おかしい。
ケンジの言葉が、ダイレクトに指に伝わってしまう。
頭がどうかなりそうだ。
指はゆっくりじゃなきゃいけないんだ。
なのに、もう。
どんどん、速く、そこを弾くように。
ピチカートでアレグロでフォルテッシモ。
左右に震わせて。
上下に撫でて。
押さえて、緩めて、回して、撫でて。
「もしかして、日曜も空く? スケートの次の日だから、連チャンになっちゃうけど」
「い、いい、よっ、……ああああっ、ケンジごめんっ、もう指がっ」
「じゃ、俺のウチに来る?」
「うぅっ、うんっっ」
ケンジはもう、指図しなくなっていた。
ただ、自分のペースで好きに話を続けている。
――だけど、私は。
喘ぎ混じりで必死に受け答えしながら、だけど快感のベールが頭を覆い尽くし、ほとんど何も考えられない。
――ああ、昇っていく。
昇り始めて、痺れたみたいに、背筋がぞくぞくして……。
「俺がクリ好きなのはもう十分わかってるだろ。……でも、マリはどうなのよ?」
「んっ、え、……んんっ?」
「俺としては、愛するカノジョに自分の趣味を理解して欲しい。ホントのこと言えば、理解というより、嗜好を共有する同志になって欲しいけど」
私の頭は、完全に馬鹿になっていた。
ヤツが何を言ってるのか、相変わらずよくわからない。
理解するための余白が残っていなかった。
小さな火花が、どんどん大きな花火に変わっていく。
もう少しスピードを落とさなきゃ、間違いなくすぐにイく。
だけど指は、激しくクリを弾き続ける。
そしてまた、熱い炸裂の予感が一気に膨らんだ。
「も、もう、イっちゃうっ」
「マリクリのこと、好きになってるか?」
「えぇっ? あ、ああっ、い、やっっ、もう、もうっっ」
激しい快感が背骨に沿って這い上がってきた。
それが突然頭の中で破裂し、目の奥がカっと熱くなった。
お腹の中で、何かがきゅっとなった。
次の瞬間、全身に震えが走った。
「マリクリは、俺のこと好きか?」
「あ、ああっ、す、きっ」
「マリは? マリはマリクリ好きか?」
「んああっ、……す、好きぃ。ああ、いやっ、イっちゃうイっちゃうっ、……ぁあイく、イくぅっ」
背中が反って、足がつっぱった。
右手に掴んだ携帯を、強く握りしめていた。
股間に伸ばした手が、強く押しつけられた。
ぬるっと、指が滑った。
「んんんあっ」
「そのまま触り続けて。指は止めるな」
「んうぅっ」
強くそこを押さえこんだ指が、再び動き出した。
頭の中では、必死に何かのイメージを追おうとしていた。
でも、何も浮かんでこなかった。
ただ、すぐにまた快感の波が寄せてくる。
波の動きにあわせて、次々と小さな爆発があった。
鋭い快感があわさって、痺れるような波になる。
大きな波に、一瞬指が離れた。
――あ、駄目っ。もっと、まだ、まだやめないっ。
すぐに指を戻した。
普段だったら、とっくに離して脱力している。
でも、今日はそのまま、指を動かし続けた。
刺激が強すぎて、ちょっと辛い。
それでも、指を動かす。
クリを小刻みに震わせる。
あああっ、まだっ、いい。
イくのが、長い。
ああ、ああ、ああ、ああああっ……。
さすがに、刺激が苦しくなった。
ただじっと押さえるだけにした。
そうしているだけでも、脈に合わせて弾ける快感が残っている。
ああ、気持ちいい……。
いっぱい感じてる。
そっか……。今まではすぐに離しちゃってたけど、もういいって思った後にも快感はあるんだ……。
それからも何回か、びくっとなった。
そして、その間隔が徐々に長くなり、やがて止まった。
END
急に静かになっていた。
布団の中が、自分の体温で熱い。
「マリ、どうだった?」
「ん……イった。んんっ、まだ、気持ちぃぃ……」
「マリクリは? 満足した?」
「あ……、う、ん」
「そっか。俺とマリって仲間だな」
「……んんん」
途方もなくヤらしくて、それに超恥ずかしい話をしてる。
だけど、あまり気にならない。
倦怠感の混じる余韻の中で、ほわほわとした気分に満たされている。
「じゃあ土曜はスケート、日曜はマリクリ・デーってことで」
「あ、……うん」
ケンジの声は落ち着いていた。
でも、マジで嬉しそうな感じが伝わってきた。
余韻と恥ずかしさで、こっちは全身が火照っている。
「マリ」
「うん」
「好きだ」
「……うん、私も」
「マリクリ」
「うっ、……う、ん」
「好きだ」
「う、ん……」
阿呆な会話が、甘く感じた。
日曜日はまた、ヤツと二人きりになるらしい。
たった今イったばかりだというのに、それが待ち遠しい。
やっぱ私は、ケンジのエロ・ウイルスに感染してしまったみたいだった。
END