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2015/08/03(月)
「あ……、あ……ひぁ……」
薄暗い室内に女の喘ぎ声が響いていた。
やや掠れ気味ではあるが艶やかなその声に混ざって、微かな機械音と金属音が聞こえてくる。
前者は均一に変わることなく、対する後者は不規則に。だがどちらも無機質な音という点では変わりがなく、それが反語的に女の嬌声を際立たせていた。
もうどれくらいの間、こうしているのだろうか。彼女──アリスは混濁した頭でそんなことを考えた。
顎を持ち上げて周囲に視線を走らせたが、ただただ薄暗い闇が広がるばかりで何も分からない。せめて窓の一つでもあれば、大体の時間くらいは分かるのだが。
「ぅあ……誰か……誰かいないの……」
弱々しい声をもらしたが、アリスにも分かっている。ここには誰もいないし、誰かが来たとしてもそれは決して自分の味方ではない。
アリスは敗軍の兵として捕えられた身であり、ここは敵地の真ん中である。そして祖国は既に亡い。助けなど来るはずがないのだ。
アリスは黒い長い髪を揺らしながら、耐えるように唇を噛み締めた。
助けが来ないのなら、自分で逃げ出すまでである。今の自分に出来るのはその機会を待つことだと言い聞かせる。
「……負ける……ものかっ」
身じろぎをする度に、両腕を拘束する鎖が耳障りな音をたてて室内に反響した。
アリスは手首を頭上で一纏めにされて天井から吊り下げられ、膝立ちの体勢を強制されているのだ。膝は大きく開いた状態で、膝裏に棒を渡されて固定され、更に下半身は丸裸に剥かれてしまっている。そのうえで、
「……っ、あ……ああ……っ」
剥身のクリトリスに卵形の玩具を貼りつけられていた。
ローターはテープで固定され、更にその上から二本の黒いゴムを使って押さえられている。
ゴムが限界近くまで引き伸されているせいで、振動し続ける玩具は少しもズレることなくアリスの陰核に押し付けられている。
一体この状態で、どれくらい放置されているのだろう。
振動自体はそこまで激しくないので、当初は『この程度なら』とタカをくくっていたアリスだったが、今ではそれを撤回せざるを得なかった。
「あ、あ、あ……、ああっ! だめ……だめっ!」
白い腿が震え、腰がカクカクと揺れる。
アリスのクリトリスは延々と責められて、すっかり膨れ上がってしまっているのだ。
そこになおも刺激を送り続けられては耐えられる筈などない。アリスは処女であるのだから尚更だ。
露にされた秘裂からはどろりとした愛液が垂れ落ち、身を捩ると腿がそれを受け止めるような格好になる。
火照った肌が自らの股間の惨状を遠回しに伝えてくるようで、それがたまらなく恥ずかしかった。
「いや……っ、いやぁ……」
アリスは耐えるように頭を振ったが、クリトリスに送り込まれる刺激からは逃げられない。
腰の奥から全身が締めつけられるような切なさが生まれ、それが全身に波及していく。
背中を汗が流れ落ちる感覚にすら、体がピクリとはねてしまう。
それでもローターは止まらない。淡々と震え続け、クリトリスを痺れさせて快楽を送り込んでくる。
頭の中まで蕩かされていくような快感に、全身の痙攣が止まらなくなった。
「あ……あああっ!……い、あ、あっ! あああーっ!」
ガクガクと全身を震わせながら、アリスは何度目か分からない絶頂を迎えた。
何の手出しもされていない秘唇が物欲しげにヒクつき、濃厚な粘液が床へと滴り落ちる。「あ……ああ……いやぁ……もう止まってぇ……」
ぐったりと脱力するが、ローターが止まることはない。
絶頂してより感度の高まった陰核に、無慈悲なまでの快楽振動が与えられ、アリスは休む間もなく髪を振り乱した。
自分では見えないが、玩具を貼りつけられたクリトリスは充血して赤くなって、とてもいやらしい姿になってしまっているのだろう。
思わずそんなことを想像してしまい、アリスは顔を真っ赤に火照らせた。
処女のアリスでもささやかな自慰くらいはしたことがある。自分の指でクリトリスを撫でたことも、少ないながらも経験があるのだ。
そのおかげで、自らの肉芽がいやらしく膨らんでいるところがリアルに想像できてしまい、顔の熱を振り払うように頭を左右に振りたくった。
だが熱は冷めるどころか、ますます火照りを増していく。剥き上げられて固くなった陰核が、ヒクヒクと震える様すら感じ取れる。
その感覚で思い出していた。自分の指で慰めた時の感触と、その時の快楽を。
「ふぁぁ……」
とろとろと蜜を垂れ流しながら、アリスは恍惚と唇を震わせた。
勿論、自分で慰めた時と今とでは全然違う。自慰をしたことはあっても、いつも達する手前で止めてしまっていたので絶頂など知らなかったし、こんな風に延々と刺激することも当然なかった。
クリトリスを責め続けられることが、こんなにも辛いとは想像もしていなかったのだ。
アリスも女である以上、捕えられれば男たちの慰み者にされるのだろうと覚悟は決めていたが、こんな仕打ちを受けるとは夢にも思っていなかった。
(こんな小さな玩具に……)
余りにも屈辱的だった。だが。
(体が……おかしくなる……)
きつく閉じていた眦が切なそうに震える。
屈辱的ではあるが、相手はただの玩具なのだ。人間──敵国の男に嬲られるよりはマシではないだろうか。そんな考えが脳裏をよぎる。少なくとも、犯されて慰み者にされるよりは遥かにマシだろう。
そう考えてしまうと少しだけ気が弛み、腰の奥でジワリと快感が膨らんだ。
「ああ……あ……ああ、あ、あ……」
アリスは怪しい昂奮に体を震わせながら、甘い喘ぎを響かせた。
延々と送り込まれる快楽は確かに辛かったが、苦痛といえる程に強くもない。振動そのものが微弱であるし、均一なリズムなので変化もない。
気付けば、いつの間にか自分で腰を揺らしていた。
「ああ……こんな……」
潤んだ目を歪めたが、腰の動きを止めることはできなかった。悩ましげに腰をくねらせながら、ポタポタと涙をこぼす。
悔しさもあったが、それ以上に辛さが勝っていた。
「あぅ……こんな……こんなの、もどかしい……」
アリスは延々とこのローターに責められているのだ。
振動は少しも変わらず、弱まることもなければ強まることもない。
長時間おなじ刺激を受け続けていれば、それに慣れてしまうのは当然である。
「い……ああぁ……ああっ……」
ガチャガチャと鎖を鳴らしながらアリスは身悶えた。
体はどこまでも昂っているのに、刺激がそれに追いつかない。微弱で平坦な振動ではもう物足りなかった。
(こんなのじゃ……イケないぃ……)
だが体を揺すっても頭上で鎖が音をたてるだけで、ローターの動きは変わらない。
止まりはしないが、強まることもない。生殺しのまま、止まることだけはなく動き続ける。
「誰か……誰かぁ……」
薄暗い部屋にアリスの喘ぎがこだまする。
少し前まで聞こえていた機械音と金属音は、喘ぎに消されて聞こえなくなっていた。
おわり